アメリカが戦争に向かった日、私はジョシュ・ハートネットとともにJ.Paul Getty
美術館を訪れた。その若き俳優の深く感性豊かな、真の芸術家としての姿を探ろ
うという目的であった。真の芸術家、彼は既にそうなのかもしれないし、あるい
はこれから成長してそうなるのだろうと思われるが、青年のピンナップがそれを
伝えるのは難しいかもしれない。特にこんな世界の終末を思わせるような3月のと
ある水曜の午後では・・・サダム・フセインに対するジョージWブッシュの最後通
告が最終段階を迎えていた。
その美術館に向かう途中、ハートネットの乗った運転手付の車は渋滞に巻き込ま
れた。ハイウェイの出口は封鎖され立ち往生していた。ヘリコプターが頭上を旋
回し、LAPDの巡察が政府の建物に向かう途中で、そこでは戦争に抗議する30人以
上の人が暴動鎮圧用装備で警棒を振りかざす警官によって逮捕されようとしてお
り、何人かは取り押さえられていた。ハートネットのお抱え運転手はウィリーと
いう感じのいい男で、もうすぐバグダッドに爆弾が雨のように落とされることを
考えると眠れなかったと打ち明けた。「大変な日になりそうな気がするよ」とウ
ィリーがいうと、「本当だね、全く」と薄い色のついた反射ガラスごしに街を見
ながら、後部座席の乗客(ジョシュ)は言った。
もし状況がよかったとしても、ハートネットは必要悪である薬であるかのように
この取材に取り組んでいたであろうと思う。マスコミに関わると、彼はくだらな
いラッピングで包まれるだろう・・・Hollywood's Hottest Hunk(ハリウッドの
一番ホットな男)、the Embodiment of Yound Hottiewood(若い魅力的なハリウ
ッドの男が具象化されたような人)、It Boy、Hot Boy、Fly Boy(かっこいい男
)。他の有名人も同じように商業化されているが、ちゃんと独自性を持って名前
が知られているのはわずかで、多くはすっかりお世辞に踊らされている。リンカ
ーンの中で私の隣に座っている若者はただのハリウッドで一番のハンサムな男で
はない。彼はJosh Hart-throb(憧れの人)であり、Josh Hart-Breaker(胸が張
り裂ける思いをさせる人)であり、Josh Hot-Nett、the One From the Hartnett
、All Hart、Hartnett'n'Soulなのである。「パーフェクトなビジネスなんかじゃ
ないよ。」と彼は言う。「ただ屈しなきゃいけない。」
しかし今日は状況がよくなかった。LAは混乱している。世界は危機に瀕している
。ジョシュは軍人を演じ成功したかもしれないが、実際の彼は古い考え方のミネ
ソタの自由党員で、昨秋飛行機事故で亡くなった上院議員Paul Wellstoneを支持
していた。彼は今朝故郷のTwin Citiesからの飛行機に乗ったため、午前五時から
起きているという。明日戻る予定だ。彼は新作映画、アクションコメディHollywood
Homicide
のプロモーションのためだけにやってきたのだ。彼はヨガのインストラクターと
しての副業を持つ刑事を演じている。私は映画について訊ねると、彼はまだ見て
いないのだと言った。私達はまた窓の外を眺めた。「こんな日にどうする?何を
考えたらいいんだろう」と彼は言った。
Santa Monica mountainsの山頂に位置するその美術館、新古典主義の大理石と御
影石の立派な建物に私達が到着したとき、月並みだが南カリフォルニアのまた異
なった情景に私達の移動中の心配は消えていった。太陽は輝き、海はきらめき、
花が咲き乱れていた。学生や旅行客の集団が、展示品の間を動いていき、戦争の
近づくドラムビートの音はラテマシーンにかき消されていた。「今ここでいるの
はすごく不思議で変な感じだよ」と彼は言った。「みんなそれぞれ自分の意見が
あるだろうけど、ただそれについて考えていないんだね。それはある意味いいこ
とだと思う。自分達はそれと離れた場所にいられるわけだから。でもなんだか怖
いよ。世界でだれも心配していないように思える」彼はそこで一度黙り、それか
らこう付け加えた。「世界では僕達(アメリカ人)は何も心配していないように
見られるんだろうね」
私達がまだあまり進まないうちに、10代の少女の集団が押しかけてきた。見てい
るだけで頭が痛くなってくるくらい、彼は眉が隠れるほどデニムキャップをしっ
かりかぶっていたが、彼女らは獲物を見つけた。「ハーイ、今いいですか?」一
人が声を上げた。おとなしくしようとしている様子で、ハートネット自身と同じ
ように感じのいい子達だった。彼は状況を把握し、失礼にならないよう、またう
っかりもっと目立ってしまわないようにしながら出口を探していた。それはある
俳優が自分に憧れる人達に見つかり、プライバシーを心から望んでいるという、
決定的な場面であった。そして・・・彼はしなやかに右手を差し出したのだ。握
手である!そのジェスチャーはSadie Hawkingのダンスのときの6年生から想像さ
れるような、熱狂的かつ親近感があるもので、とてもアメリカの独身男トップ50
の一人の行動には思えなかった。少女らが去ってから、私は彼に言った。キスや
ハグをしたら彼のHottie Alertのステータスが上がるのはもちろん、もっと彼女
らの期待に答えることになったのでは?「それはできないよ。彼女らも緊張する
し、僕も緊張するし、それにただ・・・そういう居心地の悪いことはやめて先に
行こう。」
これは単にハートネットがとてもナイスガイだということを言おうとしたわけで
はない。”aw-shucks earnestness(控えめな真面目さ)"(Los Angeles Times)
、"aw-shucks grace(控えめな優美さ)"(Mineapolis Star Tribune)、”aw-shucks
sense of decorum
(控えめな上品さ)"(New York Times)など、彼には人の心をひきつける控えめ
なところがある。彼はインターネットサイト、Mr.Showbizでも言われるように、
控えめなタイプの男だ。しかし、彼は思慮深い俳優であることから、何か少し陰
気なところがある。恐らくそれは彼の"brooding good looks(気が滅入るくらい
の美貌)"(New York Times)、"brooding intensity(陰気な激しさ)"(The Face
)、"thoughtful brooding presence(思慮深く陰気な存在感)"(Interview)か
らきているのであろう。つまり彼は"injured adolescent brooder(傷つき思いに
ふける若者)"(Movieline)だからである。しかし気が滅入っているときでさえ
も彼を見るのが嫌でないのは彼の"hypnotic, smoky eyes(人の注意をとらえて離
さないくすんだ瞳)"(Chickstars)のせいだろう。それは時に"smoldering eyes
(感情が鬱積している瞳)"(New York Times)のように見えるが、また"flinty
green eyes
(冷酷な嫉妬の目)"(Guardian Unlimited)や"brown-eyed Midwestern
wholesomeness
(茶色の目のアメリカ中西部の健康な人)"(New York Post)のように見えたり
もする。それは彼が"boy-next-door good looks(どこにでもいる男の子のような
顔立ちのよさ)"(USA Today) を持つ"boyishly handsome
Minnesotan"(Associated Press
)だということを考えると当然だ。それが時に"dark good looks"(Vanity Fair
)のように思われてしまうが、本当は"all American good looks andeasygoing
Midwestern charm
(アメリカ的なハンサムさとのんびりした中西部の魅力)"(Harper's Bazaar)
を併せ持っているのだ。彼は結局のところ"tall, good-looking, all-American
guy"
(Movieline)なのである。
たいていこういうものは「いい記事」に分類されるので、そのCreative Cutie(
ジョシュ)はそういうレッテルが自分の才能を誤って伝えていると主張しながら
も我慢しているのである。「僕はただの俳優なんだよ」と彼は言い、思いつく中
からジーン・ハックマン、アル・パチーノ、マーティン・ランドーを引き合いに
出して、「すばらしい俳優というのは役の中で目立たないような何かを持ってる
。その役柄の中に自分を見失うんだよ。僕は映画館に行ってスクリーンの中でジ
ョシュ・ハートネットを見て欲しくはない。」と言った。もちろん彼自身がそう
いう賛美を招く俳優の仕事を、すなわち最も費用のかかる映画で彼が"a Pearl of a
Guy"
、"a Sex Bomb"、"an American Flyer"になることにつながる役を選択したのだ。
パールハーバーについての彼の葛藤についての話は何度も繰り返され、今では伝
説のようになっている。ティーン映画のスターからフル・スロットルのスターへ
と躍進することに葛藤した彼は、ある日洗車途中に父に相談する。彼の父親は不
動産業を営み、アル・グリーンのバンドでギターを弾いていたほどクールな人な
のだが、この言葉を思いつくのだ。「名声は一時的なものだ」彼は息子にこう言
った。「後悔は一生残る」
私はそのポスト・トム・クルーズ(ジョシュ)にその運命を決することになった
洗車の日から生活がどう変わったかを訊いてみた。「起こるだろうと恐れていた
ことが全部起こった。起こるとわかってたし、実際そうなったよ」と彼は言った
。「外に出ることや買い物に行くことさえも怖いと感じて家に過ごすことが多く
なるだろうと思ってた。みんなが自分のことを知っているけど自分は誰も知らな
いっていうような感じだね。それについて泣き言を言いたくはない、自分で選ん
だことだし、避けられないことだからね。でもこれはひとつ自分が気づいていな
かったことだけど、特定の時期、特定の場所でだけ起こるだろうくらいに思って
たんだ。いつもどこででもそうなるだろうなんて思ってもみなかった。休みなし
なんだよ。’タイム’とか言ってマスクをはずしたりできないんだ」
私達はGettyというカフェテリアに席を見つけ、出演作の選択のことについて話し
た。ブラックホークダウンのような忘れられないほどに影響力のある映画をつく
り、それから恋する40daysのようなかわいい男の子の間の抜けた話に主演したこ
となどである。私は、ハリウッドは役者として彼が成長する時間を与えるのだろ
うか、それともできるだけ多くできるだけ早く彼の外見的魅力を搾り取ることを
求めるのだろうかなどと考えていた。1998年以来彼は11作に出演した。彼はまだ24
歳である。「彼は現代のゲイリー・クーパーだ」とブラックホークダウン、パー
ルハーバーに彼を起用した大物プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーは言
う。「彼には強く、静かな威厳がある。頭がいいんだ。性格もいいし、背も高く
ハンサムだ。それらはハリウッドで成功するのにふさわしい。」しかし彼の人を
ひきつける力を最大限に利用したヴァージン・スーサイズのようなものもあれば
、愛ここにありてやフォルテのようにそれを無駄遣いしたものもある。称賛に値
することに、ハリウッドのHottest Newcomer(ジョシュ)は最近新しいスーパー
マンシリーズの儲かる役を断った。3部作の契約を要求されていた。彼はその理由
について(「ただあのタイツをはきたくなかったんだと思う」)遠慮がちである
が、自分の存在が永遠に鋼鉄の男に結び付けられたくなかったのだろうという気
がする。「ジョシュが尊敬しているという俳優のようになるには男らしい顔立ち
のよさに関してよりももっと人生についての役を完成させることだね」とシェー
クスピアのオセロを独創的に現代化したOを監督したティム・ブレイク・ネルソン
は言った。「彼がどの場所にいて、どういう人物かを考えると、彼は小文字での
ジョシュ・ハートネットと、大文字でのジョシュ・ハートネットを守らなくては
いけない。それは大変な負担だよ」
その日私が見たのは、やせ気味で6フィート3インチのラフな格好をした俳優(ジ
ョシュ)が裸足でポーズを取っているところだった。まずくすんだオリーブ色の
ミリタリーのジャケット、それからチャコールのトレンチコート、変わったウエ
スト丈のマクラメ網になっているラップコート、そして最後に英語、ヘブライ語
、アラビア語でPEACEと書かれたTシャツである。カメラは彼のえくぼに焦点をあ
て、彼はあごに触れ、髪をくしゃくしゃにし、ときおり毛がフワフワしたグレー
の猫を撫でた。その猫はスタイリストが何らかの理由で持ち込んでいた。ハート
ネットはそれら全てとうまくやっていた。ただそのPEACEのシャツのショットは彼
は使わないように頼んでいた。彼は平和主義の家庭で育ったが、2つの傑出した役
では戦闘服に身を包み、今ではアメリカ軍の犠牲者に大きな感謝を言明している
。「ただちょっと独善的に見えるとは思う」と彼は言った。
ランチを取りながら、私は彼に、ハリウッドのHottest New Poster Boyを作るこ
とに通じる、偶像的崇拝や媚を売って着飾ることは自分のキャリアに役に立って
いるか、あるいはそれは結局自分に害を与えているかを尋ねた。彼は十分心得て
おり、分別のある芸術愛好家のように見えることの危険を見越していたが、それ
でも男性肉体美の写真を撮らせることに余念がないようにも思えるセレブリティ
の世界の固定概念にまだ調子を合わせているようだ。「それについてはあまり僕
は考えていないよ。ただ顔を出して写真をとってそれに取り組んでるだけ」しか
し私は繰り返した、「君は自分のとったポーズや選んだ役柄、それからこの雑誌
のカバーで夢を誘うように見えることによって、自分自身に特定のイメージを与
えていることはわかってる?」
「それをしているときは、考えないようにしてる」と彼は言った。「もしそれが
そのようにイメージを与えるんだとしたら、僕は第三者なだけだよ。」
「いや、第三者なんかじゃないよ。君はこれに関わってる。君が伝えようとして
ることって何?正直に。ただ知りたいだけなんだ」
ただ君は君自身を客観化することに関わっているんだと私は彼に言った。映画ス
ターとして、ロマンス大作に主演する男としてはそれでもいいかもしれないが、
君のゴールが俳優として真剣に受け止められることなのなら、君自身ではなく役
柄を自分の中に宿らせることなのだとしたら、ハリウッドのNo.1ヒーローのよう
に受け取られることは君の望んでいることではないかもしれない、と。
「わからないよ」彼は疲れたように言った。「自分自身に言わなきゃいけないこ
とかな」
Gettyの集客力のある展示品はビデオアーティスト、ビル・ヴィオラによって取り
付けられた受難であった。非常に感情的な状態にある無言の俳優達を描写してい
るフラットパネルのモニターをメインにしている。彼らの顔は痛み、恐れなどの
感情でゆがんでいた。その効果はヴィオラが極端なスローモーションを使用した
ことで増幅されていた。その痙攣、顔のゆがみ、涙は展開に長い時間をかけ、そ
の苦痛をおぼろげな儀式へと変えている。「怖いね」最新のShooting Star(ジョ
シュ)はひとつのデジタルスクリーンから次のものへと歩きながらそう言った。
「この男はちょっと問題ありだね」私達はタウンカーの中でもそれについて話し
ていた。ウィリーが再び都会の混乱の中へと案内してくれていた。「そのアーテ
ィストが本当に意図的でない感情に頼ってたら、時の経過の表現はもっと意味深
かっただろう」とNew Heartbreaker(ジョシュ)は言った。「でもこれは本当の
ものじゃなく、誇示された感情で、舞台効果を狙ったドラマだから」と彼は付け
加えた。「ドラマチックになりすぎると、その効果を失うよね」私はパールハー
バーのダニー・ウォーカーの長く続いた死の苦しみがスローモーションではため
いているアメリカの国旗へとフェードアウトしていくのを思い出していたが、そ
の点を改めて主張はしなかった。
私達はNPRを聞きながら静かに座っていた。通りはまだ渋滞しており、窓の外では
プロテスター達が「平和こそが愛国的だ」と書かれたプラカードを振りながら家
路に向かっていた。午後5時、サダムの最終期限近くだった。そのときである、バ
ックシートに座った男が -ジョシュア・ダニエル・ハートネットが- 私の方を向
いて謝ったのだ。「気分の悪いインタビューだったよね。僕はあまり感情を出し
すぎないようにしてるんだ。」それがその日彼が一番正直に言ったことだったと
思う。